「事実は小説より奇なり」といいますが、歴史上の人物の人生や歴史的な出来事は非常にドラマチック。
今回は「歴史漫画はなんか堅苦しくて退屈!」というイメージを持っている人でも楽しめるような歴史漫画を5作品選んでみました。
おすすめ歴史漫画1:『ヴラド・ドラクラ』ドラキュラのモデル
『ブラド・ドラクラ』は大窪晶与先生による作品。エンターブレイン発行のコミック誌『ハルタ』で連載中です。
吸血鬼・ドラキュラ伯爵のモデルの一人として知られるワラキア公国君主・ヴラド3世を主人公に、内紛やオスマン帝国との闘いを描いています。
2020年6月現在、単行本が3巻まで発売されています。
『ヴラド・ドラクラ』のあらすじ
ヴラド3世は、15世紀の人物。対立する敵を次々と串刺し刑にしたため、「串刺し公」と呼ばれていました。暴虐の限りを尽くした統治者としてのイメージが定着していますが、これはハンガリーによるイメージ戦略であり、近年では故国を守るために闘った英雄と評価されています。
当時のワラキアはハンガリーやオスマン帝国といった強敵にまわりを囲まれた小国。そのうえ、国内では貴族の権力が極めて強く、統治者が貴族によって暗殺されることも珍しくはありませんでした。
内外に火種がくすぶる不安定な状況で、ブラド3世は王としての足場を確かなものにするために、時に犠牲をはらいながら強かに立ち回っていくブラドの姿は、男女関係なく胸が躍るはず。
舞台である中世東欧のダークな雰囲気も新鮮です。
おすすめ歴史漫画2:『イノサン』フランス革命下の処刑人の物語
『イノサン』は、坂本眞一先生の作品。『週刊ヤングジャンプ』(集英社)で、続編である『イノサン Rouge(ルージュ)』が『グランドジャンプ』(集英社)にて連載されていました。
『イノサン』の単行本は全9巻、『イノサンRouge』の単行本は全12巻となっています。
『イノサン』のあらすじ
物語の主人公は、フランスの処刑人一族であるサンソン家の兄妹。
特に『イノサン』では、兄であるシャルル・アンリ・サンソンを中心に、続編である『イノサンRouge』では妹のマリー・ジョセフ・サンソンを中心に物語が進んでいきます。
シャルル・アンリ・サンソンは、フランス革命時にあのマリーアントワネットの首をはねた処刑人。気が弱く、繊細な青年だったシャルルは「死刑をなくしたい」という思いを抱きながらも、一族の務めからは逃れることができずに処刑人として生きていくことになります。
この時代は「個人」の願いよりも「家」としての務めが優先させれる時代。処刑人一族の家に生まれてしまったシャルルは生まれを呪い、自分を家に縛りつける祖母や父と衝突しながらも、運命から逃れることは許されません。
しかし、自分自身も妻や子を養う「父親」という存在になったとき、ただ純粋に自分の望みを追うことはできないのだということ悟ります。
一方、妹のマリー・ジョセフ・サンソンは、自ら処刑人という職業を選び、自分の力で未来を切り開こうとする女性。シャルルが抗えなかった「時代」や「家に」に噛みつき、やがて王政を否定し貴族を滅ぼすためにフランス革命に身を投じていきます。
現代を生きる女性の視点から見て、共感できるところの多いキャラクターです。
かつては手を取り合って窮屈な「時代」と「家」を変えようとしていた兄妹が、フランス革命という大きくうねる波の中をどのように生きていくのか、結末が見逃せません。
『イノサン』は耽美的な絵と表現も魅力のひとつ。処刑シーンが果物や野菜で表現されたり、会話シーンがミュージカル調に表現されたり、物語の内容はもちろん、表現手法にも注目してみてください。
絵が非常に美しい分、処刑シーンはリアルでやや刺激が強め。グロテスクな描写が苦手な人は注意が必要です。
おすすめ歴史漫画3:『碧いホルスの瞳』古代エジプトを生きた男装のファラオ
『碧いホルスの瞳 -男装の女王の物語-』は、犬童千絵先生による作品。月刊誌『ハルタ』(KADOKAWA)にて連載中です。
古代エジプトに実在されたとする女性ファラオのハトシェプストの半生を描いた本作。
単行本は2020年6月現在、7巻まで発売されています。
『碧いホルスの瞳』のあらすじ
物語の舞台は紀元前1400年代。古代エジプトで有名な女性といえばクレオパトラですが、ハトシェプストはクレオパトラよりもずっと前に活躍した女性です。
そもそも、古代エジプトは女系社会。王位継承権は正室の子女にあるのですが、女性はファラオ(王)になることはできませんでした。
父王の正室の長女であるハトシェプストは、偉大な父王に幼い頃から憧れ、ファラオになることを夢見ていました。しかし実際には彼女がファラオになることはできず、異母系の兄と近親婚させられ、女王という立場に。
ファラオとしての資格も素質も兼ね備えていながら、女性であるということが理由で統治者になることはできないというもどかしさ。しかし、ハトシェプストはそこで折れることなく、ファラオになることを諦めません。
また、ファラオへの夢を追い続けるそんなハトシェプストの周りには、彼女を支える友や部下が集まります。
女であることの不自由さ、母としての悩み、1人の女性としての望みに揺れるハトシェプストの姿は、現代を生きる私たちにも重なるところが多くあります。
おすすめ歴史漫画4:『大江戸国芳よしづくし』浮世絵師歌川国芳の若き日
『大江戸国芳よしづくし』は崗田屋愉一先生による作品。浮世絵師歌川国芳の若き日を描いた本作は、日本文芸社から単行本が出版されています。
『大江戸国芳よしづくし』のあらすじ
歌川国芳は江戸時代末期の人物。武者絵や名所絵、美人画など、幅広いジャンルで活躍した名絵師です。
猫の愛らしい姿を53種類描いた『其のまま地口 猫飼好五十三疋』や、画面の半分を占める大きな骸骨が印象的な『相馬の古内裏』などは、浮世絵に興味がない人でも見かけたことがあるのではないでしょうか?
現代では名が知られた歌川国芳ですが、実は遅咲きの人物でした。若い頃は絵の仕事がなかなか入らず、日々の暮らしにも困るような有様。ようやく名前が知られるようになったのは『通俗水滸伝豪傑百八人』を発表した30歳のころだったといわれています。
当時江戸で大人気だった『水滸伝』に登場する英雄たちを描いたこの作品をっかけに、人気浮世絵師の仲間入りを果たした歌川国芳でしたが、この『通俗水滸伝豪傑百八人』を発表の裏には、国芳にとってある一つの悲しい出来事が。
力強い線で描かれた江戸の人々の粋な姿と、憎めない国芳のキャラクターは、日本を舞台にした歴史漫画に興味がない人でも楽しく読めるはず。
おすすめ歴史漫画5:『かぶき伊左』現代に続く歌舞伎の転換期を描く
『かぶき伊左』は紗久楽さわ先生による作品。江戸時代末期から明治初期を生きる歌舞伎役者たちを描く本作は、エンターブレイン(KADOKAWA)から単行本が4巻発売されています。
『かぶき伊左』のあらすじ
主人公である市村伊左衛門は、歌舞伎役者であり、若いながら芝居小屋の主人である「太夫元」という立場。
才能と華を兼ね備え、幼なじみである女方(女形)の澤村矢之助と供に、江戸で人気の役者です。「知らざあ言ってきかせやしょう」というセリフが有名な「弁天小僧」をはじめ、当たり役にも恵まれていました。
しかし、その若さと青さゆえに、同じ役者である河原崎権四郎をはじめ、周りと衝突することも。
ちなみに、作中に出てくる役者のほとんどにモデルがいます。
主人公の市村伊左衛門は13代目市村羽左衛門(後の5代目尾上菊五郎)がモデル。市川團十郎とともに「團菊左時代」を築き上げた名優です。
伊左衛門の幼なじみである澤村矢之助のモデルは3代目澤村田之助。美貌の女方として名を馳せましたが、後に脱疽により四肢を切断することになりました。それでもなお舞台に立ち続けた悲劇の役者として有名な人物です。
河原崎権四郎は河原崎権十郎(後の9代目市川團十郎)をモデルに生み出されたキャラクター。9代目團十郎といえば、「團菊左時代」を築き上げた1人です。歌舞伎を大衆の慰みから芸術へと高め、「劇聖」と称されています。現代でも歌舞伎の世界でただ「9代目」と言うときは、この9代目團十郎を指すほど、歌舞伎の世界では偉大な人物。
本作をきっかけに、本物の歌舞伎の歴史を勉強してみるのもおすすめです!
江戸時代が終わり明治時代が始まるという激動の時代のなかで、歌舞伎もまた大きく変わっていきました。
役者として、また太夫元として一人前になろうと奮闘する伊左衛門を通して、歌舞伎が現代に繋がる形に変わっていく様を見ることができるのが、本作の大きな魅力ではないでしょうか。
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一から歴史を勉強するのは、なかなかハードルが高いもの。だからこそ、まずは歴史漫画で世界のさまざまな歴史に触れてみませんか?
文/大河ミズキ
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